ジャクソン・ブラウン

レイト・フォー・ザ・スカイ
■Late For The Sky / Jackson Browne
僕はまだこのアルバムのA面を卒業できていない〜、と語ったのは若き日の小倉エージ氏。うんうんそうだ、と後追いの僕は古本屋で見つけた「ニュー・ミュージック・マガジン」を読みながら思ったものだ。70年代の作品では、ベストに挙げる人も多いジャクソン・ブラウンの74年の3枚目(愛妻フィリスと前年生まれたイーサンに捧げられている)。印象的なジャケットは、ルネ・マグリットの「光の帝国」風に試みたとか(青空と一瞬の夕闇は合成)。
前作「For Everyman」の録音に金を使いすぎたこともあり、金のかからないツアーバンド(デヴィッド・リンドレー(g,fdl)、ラリー・ザック(ds/元サヴェージ・グレース)、ダグ・ヘイウッド(b、vo)、ジェイ・ワインディング(kb))を起用しての録音が、かえってまとまっている感じ。全曲素晴らしいのだけどが、特に挙げるとまず"The Late Show"。ややクサい構成だが、ラスト近くでシヴォレー(ジャケットに写っているのはレアな50'sのシヴォレーとか)の排気音のSEを入れて、「もう一度やり直そう」と歌われるこの歌は、青くさいといわれようが、ジャクソンの思惑にはまろうが、感動的(「哀しみをゴミ袋に入れて、明日だそう。だってゴミの日だから」なんてなかなか歌えない。うねりをもったリンドレーのgの素晴らしさももちろん)。
肯定的な愛の歌といえば、"Fountains Of Sorrow"も忘れられない。現在でもステージで演奏されることが多い曲で、演奏の充実振りがまずまず。"For A Dancer"は友人の死の事が
歌われているが、プリテンダーズのメンバーの死を悼んで、スイスのステージで歌われた事もあった。"Before The Deluge"は、社会的なテーマの歌で、80年代はこのタイプが中心になるのだけど、この当時はまだ珍しい。ステージではスライ&ザ・ファミリー・ストーンの"Everyday People"の一節(♪We Got Live Together〜)を盛り込んで「同時代に生きる」事を強調した事も(すぐなくなったが)懐かしい。
それと映画「タクシードライバー」の中で突然タイトル曲をかかってびっくりする。ファンのリクエストを募ることの多いジャクソンのステージでも極めつけの人気曲だが、個人的にはよくわからない。
と書き出すとキリがないのは、やはり名作と言われるゆえんか。人生をまじめすぎるほど考え、悩むその詩の世界は、一種の文学的境地にある。歌詞カードを片手に〜というスタイルを強要する気はさらさらないけど、そういうイメージがパフォーマーとしてのジャクソン・ブラウンの(演奏(事にグルーヴ)を重視する)新世代からの低い評価につながってる気がする(例えばジェームズ・テイラーと比べれば歌い手としての芳醇さはかなりの格差がある)。