#2炎天(W・F・ハーヴィー/平井呈一訳)

怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)
特に80'sは「怪奇と幻想」ものの短編をよく読んでた気がする。ファンタジーというものが今ほど日常にあふれていなかった頃。創元推理文庫の5巻からなる「怪奇小説傑作集」と言うアンソロジーは、とりあえず古典を歴史順に並べた定番もの。その第1巻は古色蒼然とした怪談の古典が並んでいるが、その中にまじって、ハーヴィーの傑作「炎天」が収められている。いわゆるゴースト・スト-リーではなく、奇妙な味にも近いけど・・・

190X年8月20日、暑い夏の午後の話。絵描きのジェイムズ・ウィゼンクロフトは、自宅の部屋で思いつくまま空想で、ある男の絵を描いた。その見事な出来ばえに満足した彼は、その絵を丸めてポケットに入れ、当てもなく散歩に出かけた。あまりの暑さのため記憶が朦朧としながら、夜ふと気がつくと、ある石彫り屋の前にいたが、その主人の姿はまさに先ほど彼が描いた男だった。石彫り屋の主人は、墓石に名入れをしている最中で、石には「ジェイムズ・ウィゼンクロフト(1860.1.6〜190X.8.20)」と刻まれていた。

うまくまとめられないけど、この導入部分でドキドキしない人はいないだろう。どんな話に膨らんでゆくのか、という期待も大きいが、作者はオチをつけないまま、
この日のまま家へ帰ると悪い事が起きる気がすると、石彫り屋は絵描きを自宅に引きとめ、酒を出し日付が変わるまで待つように促す。この短編は、絵描きのメモ形式になっており、石彫り屋が蚤を鑢でといでるシーンで唐突に終わる。絵描きをどうなったのだろうか、何事もないまま、翌朝を迎えられたのか?、石彫り屋の鋭利な蚤で殺されてしまったのか?それとも・・・

ハーヴィーは戦前に亡くなった英国人作家で、これまでまとまった作品が日本で出た事はない。この「炎天」は不気味な、それでいて何度も読み返したくなるような作品だ。