バカ始まりセレクト曲目発表

20回目のお題セレクト合戦(というのが最初の名前だったのです)は、
「バカな曲から始まって、真面目な曲で終わる12曲、もしくは、3の倍数にアホな曲がある世界のナベアツセレクト、もしくは、それに準じたもの」
というのがテーマです。ハッキリ言ってかなり難しかったですが、出来上がったものは、いつものセレクトとあまり変わりません。他のセレクターの方々は、結構コンセプチュアルで、さすがだなあ…と思いますねえ。それでは曲目を紹介します。

(1)Torpedd Rock:Phil Spector Wall Of Sound Orchestra

バカな曲ということで、ブラスと効果音のからみが笑えるこの曲を選んでみました。フィル・スペクター関連のレア音源集「Rare Masters」('75)は、ちゃんとした形ではいまだCD化されておりませんが、ここからのナンバーでおそらくは、シングルのB面用に録音されたものでしょう。ご存じの通りスペクター関連のシングルのB面は、A面を目立たさせるため、意味のないインストというのが多かったです。途中のカモメの声って、モノクローム・セットの"Wallflower"にサンプリングされたものと同じでしょうか?(未確認)

(2)Late Show:Jackson Browne
ASIN:B001F5A8D8
ジャクソン・ブラウンのこれまた有名な3枚目「Late For The Sky」('74)のA面の最後を飾るバラードです。作詞家としてのジャクソンの最も脂にのった1枚でしょう。とりわけ「明日はごみの日、悲しみを袋に詰めて向こうの角まで出しに行こう」(大意)という一節は、今なお新鮮です。うねりをもったデイヴィッド・リンドレーのlap-steelも印象的ですが、ブレイク後シヴォレー(マグリット風のジャケットに映っています)の排気音もまた効果的です。

(3)Doctor's Order:Carol Douglas

ディスコ黎明期の74年にヒットしたキャロル・ダグラスの"恋の診断書"ですが、イントロの通話音からして快調です。少なくともジーコジーコの黒電話ではこんな軽快な音はしなかったはず。#11まであがったヒットです。くわしくはここ

(4)ロサンゼルス大橋Uターン:センチメンタル・シティ・ロマンス
センチメンタル・シティ・ロマンス GOLDEN☆BEST/センチメンタル・シティ・ロマンス
リリース当時「ニュー・ミュージック・マガジン」紙上で論争になったなんて昔話はSHINODAさんならご記憶のことでしょう。批判側の大将は中村とうよう翁で「ポコ、ロギンズ&メッシーナアメリカなどからのいいとこどりのつなぎ合わせ」というのが主旨だった気がしますが、僕は後からそれを読んでなんでそれがあかんの?と疑問に思った覚えがあります。さて70's初めのLA周辺のいわゆるウエスト・コースト・サウンドに強く影響されながら、同時代のファンキー・ミュージックへの目配せもしっかりで、この曲の後半なんてよくできてます。ファンの間では"へのへのもへじ"として知られてる曲。タイトルにあるロス大橋というのは歩道橋の名前で、名古屋人に聞いても今では何それ?ですが…現在も現役で活動中です。75年のデビュー作「センチメンタル・シティ・ロマンス」から。prodは細野晴臣。現在は2枚目との2in1+の形で入手可能です(右)。

(5)今日は空が雨で出来てる:りりィ
ダルシマ(紙ジャケット仕様)
もうこのあたりで裏テーマにはお気づきでしょうねえ。そうです裏テーマはSE(Sound Effect)入りの12曲です。サンプリングとかなかった時代、あざとい方法ではありますが、SEをかぶせることで新たなイメージを植え付けることができました。このりりィの「ダルシマ」('73)からのナンバーでは雨と雷のSEが入って、gのフレーズを含めポール・マッカートニーの"アンクル・アルバート"をもろ思い出させます。僕はなぜかこの曲に初期ルパン三世峰不二子がかさなるのです…

(6)Sunday Bascket Ball:Peter Gallway
オン・ザ・バンドスタンド~プレミアム・エディション(紙ジャケット仕様)
セレクト周辺では知らぬ者がいないピーター・ゴールウェイですが、78年にヴィヴィッドから日本製作としてリリースされた「On The Bandstand」を聞いた時、ドアを開ける音とボールが転がる音(ドリブル音)がイントロのdsにつながってゆくこの曲に参りました。一般的には、フィフス・アヴェニュー・バンドそして最初のソロ時代ばかりが取り上げられますが、AORの時代にリリースされた(のちにアメリカでも「Tokyo To Kokomo」のタイトルでリリース)この辺も悪くはないです。長門芳郎さんのVillage Greenから世界初CD化され、去年差し替えられた4曲を加えてMuskratからCD化されています。

(7)怪獣大戦争マーチ:井上誠

さて後半戦です。昔から入れたかった曲ですが、やっと陽の目を浴びました。レンタル・ヴィデオもなかった80's初め、ゴジラ映画を見たいという(ここで言うのは70'sまでのシリーズです)東宝特撮ファンの熱意は、会社を動かし、オールナイト上映会が頻繁に開かれていました。その熱意が通じて新作が公開されたのが84年ですが、繰り返し見る事で新たな研究対象になったのが、伊福部明の音楽でした。おりしも伊福部ファン、東宝特撮ファンを公言してはばからなかったヒカシューの井上誠が、シンセでもってゴジラ映画へのトリビュートを図ったのがこの「ゴジラ伝説」('83)です。この時点ではゴジラは復活しておらず、あくまでも旧シリーズに対するレクイエムというかオマージュだったと思うのですが、NHK教育の「You」(糸井重里が司会でした)にも登場した記憶があります。さて65年の「怪獣大戦争」のテーマ曲をよりスピーディーにarrし、SEとしてゴジラキングギドラの咆哮を加えたこの音源を聞いておぼろげによみがえってくるのは、70's初めに近所の映画館で観た東宝チャンピオンまつりであったり、老朽化した映画館独特の匂いだったりします。

(8)遅すぎた別れ:ナイアガラ・トライアングル
Niagara Triangle Vol.1 30th Anniversary Edition
バリー・ホワイトを意識したという語りの曲で、伊藤銀次が訥々と語り、吉田美奈子山下達郎のコーラスが縦横無尽にかけめぐります。山下、伊藤、大瀧詠一の第1期ナイアガラ・トライアングルのアルバム('75)から。最後の方でプラットフォームで発車のベルが流れますが、僕は昔から上野よりも新宿だなあ…と思っていました。

(9)Space Invader:The Pretenders
Pretenders
これも昔から入れたかった曲です。まあなんてことないロックインストなんですが、タイトルとラストに注目。ある世代にとっては忘れられないSEです(もうみんな知らないか…)
プリテンダーズは、NMEのライターだったクリッシー・ハインドが始めたシンプルなロックンロールバンドで、現在も活動中。79年のファースト「The Pretenders」から。

(10)Motorcycle Irene:Moby Grape
ワウ
モビー・グレイプというとはっぴいえんどに影響を与えたロス・アンゼルスのバンドです。なかなかつかみどころのない存在ではありますが、とりわけ細野晴臣に与えた影響は大きかったのでは。名作と言われる「Wow」('68)からのこのナンバーのエンディングのクラッシュ音は、少し前のセレクトでめんちかつさんが入れたティン・パン・アレイの"Jackson"のイントロのクラッシュ音と同じです。

(11)Dreamboat Annie:Heart
ドリームボート・アニー(紙ジャケット仕様)
日本でのリリースは次の「Little Queen」の方が早かったですが、シアトル出身の案とナンシーの美形姉妹をフィーチャーしたハードロック・バンドのファーストからです。少なくともこのタイトル曲はソフトな感じです。波のSEが聞こえますがセカンドではうってかわった森のイメージでした。現在も活動中ですが、とりわけアン・ウィルソンは一時期見る影もない巨漢振りでした(最近はやや持ち直した見たい)。ナンシーは映画監督のキャメロン・クロウ夫人。

(12)大阪へ出てきてから:上田正樹&有山淳司
ぼちぼちいこか+6tracks(紙ジャケット仕様)
なんでもくいだおれ太郎の引退に日にキー坊と有山は太郎を交えてライヴをやったそうで、「ぼちぼちいこか」の最新盤もリリースされるとか。冒頭にテキ屋の前口上を挿入し、今は(きっと)ない昔の大阪の姿がよみがえります。「じゃりんこチエ」の世界。リリースは75年でまだサウス・トゥ・サウスがありました。僕がこのアルバムを聴いたのは80'sに入ってからでしたが、その頃すでにここで歌われる世界はなかなかなかったと記憶しています。バカな曲で始まってシミジミ終わる12曲でした。