■■■三月は深き紅の淵を:恩田陸(講談社文庫)

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

97年に出た恩田陸の初期の代表作。すべての本好きに捧げられたような作品で、非常に凝った構成になっていて、今から思うと結構粗削りながら不思議な魅力があります。

架空の「三月は深き紅の淵を(以下「三月」)」という200部限定の私家版の小説があります。これは作者を明かさない、コピーを取らない、友人に貸す場合には生涯に一人のみ更に一晩のみ、という条件が付いて出版社の編集者などに配られたのですが、後に代理人を介して回収された節があり、非常にレアな1冊となっています。その4章は次の4章から成っています。第1章「黒と茶の幻想〜風の話」、第2章「冬の湖〜夜の話」、第3章「アイネ・クライネ・ナハトムジーク〜血の話」、第4章「鳩笛〜時の話」。作者は男性説、女性説、合作説、無名の新人説、有名作家の変名説などが入り混じって、編集者の間では有名な存在とか。でその内容はミステリではないが、ミステリからの影響が濃いとされています。

そして恩田作の「三月は深き紅の淵を」(以下「紅の淵」)は、架空の「三月」をめぐる入れ子式小説になっていて、「紅の淵」もまた4章から成る構成になっています。
第1章「待っている人々」は「三月」の紹介で、管理されていない莫大な蔵書の一軒家を譲り受けた裕福な老人とその友人たちが、蔵書の中から「三月」を探し出すという話で、実はそんな本はなく、ある若者をだますためだったというオチが付きます。ここでは(本格)ミステリ・ファンがアニメや銃やPCなどのオタクと大して変わりがない、と言いたいようにミステリ・ファン談義が語られます。
第2章「出雲夜想曲」は、「三月」を知る編集者二人が、作者を突き止めて出雲に向かう話。これもミステリ的なオチが付きます。
第3章「虹と雲と鳥と」は、二人の女子高生の転落事故を発端に、実は異母姉妹だったその二人に秘密があり、片方が家庭教師に託した遺書から、その家庭教師がいつの日か遺志をついで、小説(=「三月」)を書き上げたいと語るもの。
そして第4章「回転木馬」は、「三月は深き紅の淵を」と言う小説の作者(恩田とは名乗らない一人称)が過去に完成させた1〜3章を振り返りつつ、第4章をどうしようか、と悩むエッセイ風の文章と、2章の「出雲夜想曲」にならって出雲に出かけた紀行文、更に理瀬を主人公とした「三月の国」と称されるある学園の秘密を語った文章が混在する実験的な内容になっています。

「三月」の「黒と茶の幻想」は一部設定を変えて同名の作品に、「紅の淵」の「回転木馬」の理瀬の物語は一部設定を変え「麦の海に沈む果実」「黄昏の百合の骨」につながります。