鈴木祥子


■あたらしい愛の詩 / 鈴木祥子
このアルバムが出たのは99年だけど、今までになくメロディーもまろやかになった傑作。なのにエピック時代はもとよりこのワーナー時代も廃盤とはどういうことだろう?
女性sswがガール・ポップと呼ばれ、ヴィジュアル的なものを含め過度に注目された時期があった。ソニー系のエピックと言うレーベルはそういう「ムード」で商売をすることに長けた会社だったけど、エピックが持つレーベルイメージもあって、初期の鈴木祥子のアルバムを聞くのはいささか恥ずかしい部分もある。それでもこの時期の繊細な作品には、メロディーも含め名曲も多い。転機となったのは小泉今日子が取り上げた"優しい雨"だろう。これが入った「Radiogenic」以降、急速に音楽的になってくる。ほとんどプロモーションされなかったのが実に残念な傑作「Candy Apple Red」を最後にレーベルをワーナーに移すのだが、「私小説」と題された前作は、オルタナティヴな部分も兼ね備えた1枚。そしてそれに続く本作では、一転してメロディー重視の傑作となった。
arrの面でもかかわった佐橋佳幸(g)のがんばりが目立つ。ジョン・ホール直系の歌うgが炸裂("区役所へいこう"、"もういちど"、"愛は甘くない"でのプレイ!)。ベストトラックとして挙げられる"25歳の女は"では、泥くさいスライドを披露したサザン・ロック・スタイルのブギとなっている。佐橋がやっている山弦(同時にSOYもやっていた)を思わせるアコースティックな小品、"子供の時間"もいいが、ブルージーでジャジーな"臨時雇いのフィッツジェラルド"は異色作。もう1つのベストトラック、"南へドライヴ"は、グレッグ・リーズ(元ファンキーキングス)のsteelが入ったカントリーロック調のもの。このアルバムは一部がLA録音で、リー・スクラー(b)、ラス・カンケル(ds)、ビル・ペイン(kb)、ヴァレリー・カーター(vo)らが参加。それが浮いてしまった"あたらしい愛の詩"(stringsがどうしてもソウル歌謡的なイメージを生む)のようなものもあるけど、LA録音は企画もののバカラック・カヴァー集以来。泣かせる名曲"帰郷"は少しやりすぎの部分も感じるけど。