ウルトラセブンの10本

ウルトラQ」「ウルトラマン」に続く第3のウルトラシリーズ(「マン」と「セブン」の間に「キャプテン・ウルトラ」があるけど、あれは別物と考える)としてOAされた「ウルトラセブン」は子供向きの特撮番組の形を借りてはいるけど、ずいぶん実験的な試みがされたり、社会的な問題に取り組んだりしたものがある。今見ても多少の古くささはあるけど再見に耐えうるのは見事。「Q」「マン」「セブン」はそれこそ暗記するくらい見たけど、今日は「ウルトラセブン」の10本。まず基本データ。'67.10より約1年にわたってTBS系でOA。その後何度となく再放送されているが、初回放送時は、僕は5歳だったので、本当に好きになったのは、小学生のときの夕方の再放送だろう。尚、後半に行くに従いかなりマニアックな内容になってゆく為、子供心に印象的な「侵略者」は、前半に集中している。ただ今の視点では圧倒的に後半の方が面白い。「マン」が単純に怪獣vsウルトラマンの図式だったのに対し、「セブン」では宇宙人(&怪獣)vsウルトラセブンという図式になっていて、宇宙からの侵略者というテーマを明確にしている。以下の10本は放映順。

・ 第3話 湖のひみつ

セブンの最初に撮影されたエピソードと言う。デコ少女に化けた昆虫顔のピット星人が、エレキング(なんとも素敵なネーミング)を使って、セブンを苦しめる有名なエピソード。その後何度かやられてるが、ウルトラアイを盗み出すという作戦を一番早く実行したのは彼女らだった。エレキングカプセル怪獣ミクラスの戦うシーンはセブンのスチールでもよく紹介された。怪力のミクラスは、エレキングの電気技にやられてしまうが、初回のクール星人の回に出てきた、メカニカルなウィンダム(日本名(^^))にしても、ミクラスにしても弱っちい。「地球人はかわいい娘に弱いから〜」という名言を吐いたピット星人の変身したデコ少女は、高橋礼子と言う人。劇中では、ウルトラ警備隊の誇るウルトラホーク1号2号3号がそろい踏みして、作品紹介的なニュアンスもある。脚本はセブンの誇る金城哲夫

・ 第9話 アンドロイド0指令

おもちゃ爺さん(=チブル星人)が出てくる話。頭脳系宇宙人は格闘向きではなく、セブンになすがままにやられてしまうので、子供心にはつまらない話、とインプットされていた。ネットでこの金髪(もちろんかつら)のアンドロイド、ゼロワンを演じてたのが、「怪獣総進撃」の小林夕岐子と判明(愛情あふれるサイトもある)。なんとまあキュートではないか。当時は子供過ぎてわからなかったのだろう。話としては子供たちに配ったおもちゃの武器を本物になるように細工して、少年少女兵士を作るというもの。チブル星人の机上の理論はあっけなく、打破されてしまうのだけど、冒頭でダンと名乗ったフルハシ(毒蝮)がゼロワンに電撃を食らわされるシーンがあって、チブル星人も一応考えてはいたのだ。脚本は上原正三(沖縄出身の上正らしく、チブルは頭の意味とか)で、小林=アンドロイドを念頭において書かれたという。松屋銀座でのロケ。

・第18話 空間X脱出

スカイダイヴィング練習でダイヴしたウルトラ警備隊隊員の降りた場所は、ベル星人の作り出した擬似空間Xだった、というのが今回の話。これは昔ソノシートを持ってた記憶。ベル星人の擬似空間には、霧のかかった森や底なし沼あり、吸血植物やグモンガというクモ型モンスターがいるという設定。子供心にSFだなあ、と感じた話だった。「ウルトラマン」の初期のエピソードで、レッドキング、チャンドラー、マグマ、ピグモンが出る「怪獣無法地帯」という有名なものがあるが、あのムードに近いものがある。ただベル星人はいかにも太めで、背中には貝殻みたいなものがある、奇怪な宇宙人だった。

・第23話 明日を捜せ

予知能力を持つがゆえに宇宙人シャドー星人から追われてる占い師を偶然救ったキリヤマ隊長に占い師は、マルサン倉庫が爆破され、隊長が負傷する、という衝撃の予言をする。この冒頭で決まりでしょう。つかみはOKの脚本の勝利。シャドー星人はセブン登場の宇宙人では一番不気味なルックス。怪獣ガブラはセブンのアイスラッガーで首を切り落とされても生きており、歯には猛毒があるという強敵。

・第24話 北へ還れ!

市川森一脚本のセブン第2作。その最初の作品、第13話「V3から来た男」(なんてカッコイイタイトルだ!)ではキリヤマ隊長と宇宙ステーションV3のクラタ隊長の同期の桜ならぬ男の友情を描いていたが、ここでは毒蝮三太夫(当時は石井伊吉)演じるフルハシとその母の親子の愛情を描くいかにもドラマっぽいもの。カナン星人の航空機の制御不能化装置によってフルハシの乗ったホーク3合と旅客機の正面衝突を絡めたサスペンスフルなアクションあり、コントロールされたカプセル怪獣ウィンダムとセブンとの対決ありと盛りだくさん。親子ドラマは、かなりクサいけど、息子を地元、北海道に連れ戻す為単身上京してきたフルハシの母とお守りするダン、アンヌのやりとり(会話のかみ合わなさ)も面白い。

・第25話 零下140度の対決

誰でも一度はポール星人の声色をまねたことがあるんじゃないだろうか?今やると何故かブラック・デビルになってしまうけど・・・ M78星雲出身のセブンには寒さが弱点だ、と今回の侵略者、ポール星人はなかなか賢い。直接姿を現さず、ダンの幻覚を利用しての登場。吹雪の中、赤々と燃える炎をバックにマリオネットが回転数を早めた声でしゃべる。唐突に復旧するウルトラ警備隊基地など相変わらず疑問点は多いけど、変化球でなかなか面白い1本。

・第26話 超兵器R1号

地球を守るためならば、地球人が生き残るならば、他の惑星を滅ぼすこともやむをえない、という命題は、現在でも大いに考えさせる問題だ。一連の対テロ問題。この話がOAされた当時は、おそらくアメリカのヴェトナム戦争に引っ掛けてるのだろうが、宇宙人でもあるモロボシ・ダン
「地球を守るためなら、何をしてもいいのですか? それは、血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ…」という印象的なセリフを吐く。「血を吐きながらの悲しいマラソン」で、思い出すのは映画「ひとりぼっちの青春」での過酷なマラソンダンスだが、それは別の話。ギエロン星獣は、地球防衛軍の新型ロケットによって消滅させられたギエロン星の生物が特殊変化したもの。セブンも歯が立たないので、最後は肉弾戦。翼をちぎりアイスラッガーを短刀のように持ち、喉元を掻ききる(この辺は「椿三十郎」のラストを思い出す)。ちぎられた翼からは羽毛が、喉元から黄色い液体が飛び散り、平和な田園風景を染めるシーンは、妙に印象的。子供心にはよくわからなかったのだけど、核兵器保有すれば、抑止力として働き世界平和が保たれると各国が本気で考えてた頃の話。子供番組ながらかなり深い。岡本喜八作品でもおなじみの田村奈巳の出演もうれしい。脚本は若槻文三

・第28話 700キロを突っ走れ!

これもかなりの変化球。開発された爆薬スパイナーを地球防衛軍の試験場に運ぶのにラリー・レースにまぎれて運ぶという強引な設定。冒頭のダンとアンヌのデートのシーンでは、映画館でせんべいバリバリ食べて前の観客に注意されるシーンはあるし、ラリーの途中では、深夜森の中のテントではソガがマンドリンで哀愁のメロディを爪弾くわ、そして恐竜が戦車にのったそのまんま「恐竜戦車」というキル星人のモンスターが又すごい。戦車といっても乗ってる恐竜が動かしてるような感じだし、こういうものだ、と言い切って何の説明もないのも素晴らしい。

・第37話 盗まれたウルトラ・アイ

これまた怪獣も宇宙人も出てこない地味な1本だけど、実は予算の関係で怪獣、宇宙人の出ない回を作らなければならなかったということは後に知った。この逆境が幸いしてセブン史上屈指の名作が生まれた。脚本は市川森一で、同胞に裏切られた(捨て石となった)宇宙人の少女が、同じ宇宙人のモロボシ・ダンに「僕と一緒にこの星で生きよう」と告げられるシーンはいい。この宇宙工作員の設定は、今見れば半島の某国のことを思い出したりする。渋谷の五島プラネタリウムロケもあり、「アングラバー」なんて言葉も出てきて当時の風俗がしのばれる(GS崩れのバンドも出てくる)。盗まれたウルトラアイ(このパターン多し)を探してアングラ・バーにやってくると観客がみなウルトラアイをかけている、というシーンは映画「魚が出てきた日」のワンシーンを思い出す。マゼラン星人マヤを演じた吉田ゆりは、当時高校生で後に香野百合子と名前を変えて、「太陽にほえろ」で殿下の恋人役で出てたということももちろん後で知った。これまたすっきりしない後味に、「ウルトラマン」とは少し違う大人の味を感じていたことも事実だった。

・第42話 ノンマルトの使者

おそらくはコアなファンが多いだろう一編。地球の先住民族とされるノンマルトが住む海底を開発する人類に対して、ノンマルトの使者は言う「人間は侵略者だ」と。セブンの故郷のM78星雲では、「ノンマルト=人間」を意味する。人間でないノンマルトはいるのだろうか?果たして人間は侵略者だったのだろうか?もしそうなら今までセブンが戦ってきたことはどうなるのか? という根源的なテーマを扱った本編の脚本を担当した沖縄出身の金城哲夫は、ノンマルト=琉球民族、人類=大和民族(さらに2次占領軍である米軍)を重ねていたといわれる。とにかく後味の悪さというか、すっきりしなさ加減は子供心にも感じていた。後半ノンマルトの海底都市を壊滅させたキリヤマ隊長の台詞「海底も人類のものだ!」はいささか狂気を感じる。怪獣ガイロスはヒトデとタコを合体させたかのような造形。冒頭海辺でくつろぐ休暇中のダンとアンヌだが公認の恋人同士のよう。水着シーンもあり。

かなり偏ったセレクトか。初期に登場する宇宙人はそれこそ無数のキャラクター商品に化けたものの、中盤から後半はそういうのがなくてぐっとマイナーなムード。前後編に分けられた話(キング・ジョー、ガッツ星人、ゴース星人)は総じて冗長な印象を受ける。