第19回セレクト合戦 曲目発表

Islands

Islands

(1)Right As Rain:The Band(’77)
ザ・バン道の続きではないです(^^)。すっかり「軽くなった」と当時評判だったザ・バンドの77年作「Islands」より。ライヴ活動は辞めたけど、スタジオでの新作は続くと言うアナウンスはされたけど、実際ロビー・ロバートソンと残りの4人の確執は深く、「The Last Waltz」のサントラをすんなりワーナーから出す為の、そしてキャピトルとの契約をこなす為だけの作品として、ファンの間では悪夢的な(大げさな・・・)1枚として長年冷遇されてきたけど、当時FM番組等で新譜として散々聞かされた身としては、それほど悪い作品とは思えないのですが・・・ リチャード・マニュエルがvoをとるこの曲はトップに入ってましたが"優しい雨のように"と言う邦題がぴったりと来る穏やかな曲調です。

If I Could Only Remember My Name

If I Could Only Remember My Name

(2)Traction In The Rain:David Crosby(’71)
意図したわけではないですが、今回のセレクトはわりと地味な曲が多いです。デイヴィッド・クロスビーの初ソロ「If I Could Only Remember My Name」は、普段あまり聞くことない1枚です。歌詞が難解、曲調がそっけないと言う印象がクロスビーに付きまとうのは仕方ないかもしれませんが、それでもこのアルバムにはじっくり向かい合いたいです。デッド、ジェファーソン、QSM、サンタナといった当時のシスコ関係の重鎮、更にナッシュ、ヤング、ジョニといった身内が参加した豪華ゲストの作品の中にあってひときわ地味なのがこの曲。ローラ・アラン(後にエレクトラから素晴らしいソロを出します)の弾くチターが何とも心地いい感触を生みます。

ひこうき雲

ひこうき雲

(3)雨の街を:荒井由実(’73)
ユーミンの荒井時代の4枚〜とりわけ初期の2枚には深い思い入れがあります。物質世界において消費と悦楽を積極的に促す教祖的な姿は当然ながらまだなく、特にファースト「ひこうき雲」では、キャロル・キング的なsswのアルバムでした。志向の違うキャラメル・ママと組んだことで、生まれたビミョーなズレが素晴らしい(特にユーミンの志向ではなかったカントリー・ロック的なナンバーが)。prodは村井邦彦で、キャラメル・ママの起用は彼のアイデアだったそうですが、まさに適材適所。ボサノヴァ的なナンバーも随所に置かれ、彩を見せます。アンニュイなこの雨の歌は、数多いユーミンの雨の歌でもベストの1曲でしょう。余談ですがレココレ誌'96/10の特集で渡辺亨氏が「Misslim」の項で書いてるように「十代の少女に一種の通過儀礼というか、十代のある時期に必ず耳にしている、いや耳にすべきだ」という思い込みが僕にも昔はありました。もちろんそんな「少女」は僕の妄想の世界にしかいないのですが(^^;

伝説的な「セブン・スター・ショー」('76TBS)より。

ザ・レイン・ブック

ザ・レイン・ブック

(4)Raining In LA:Renee Armand(’72)
70'sにはセッション・シンガーとして活動したレネー・アーマンドの初ソロ「The Rain Book」('72)も忘れられない1枚。ことあるごとに書いてますが、グラマラスな美人sswという触れ込みだけど、ルックス的にはタイプではないものの、そのマイルドな声に惹かれます。当時のBF、ジム・ゴードンがprodし、バックはスタジオ・ミュージシャンで固めているが匿名的な演奏も多く(だってgtrが多すぎる)、その点はいささか不満。ユニオン・ギャップのケリー・チャイターとの共作が多く、この曲もそう。グレン・キャンベルの"恋はフェニックス"を思い出す歌詞だけど、広い土地のアメリカらしい。
くわしくはここ。

時計も止まったままだから

時計も止まったままだから

(5)とおり雨:石津善之(’73)
矢野顕子がいたザリバのシングル"或る日"の詩を書いたという事で知られる石津善之の作品は、「喫茶ロック」シリーズのユニバーサル篇でしか聞けませんでしたが、去年「時計も止まったままだから」が初CD化されました。この"通り雨"は先の「喫茶ロック」のコンピにも収められていた爽やかなナンバー。雨音を思い出すアコースティックgの使い方が何とも鮮やかです。後藤次利(b)、林立夫(ds)、寺田十三夫(g)、矢野誠(prod)参加。

Samurai

Samurai

(6)More Rain:Samurai(’71)
Greenwich Gramophoneというマイナー・レーベルからリリースされた事から古くからのブリティッシュ・ロック・ファンには希少盤としておなじみのサムライの唯一の作品「Samurai」から。7人組のブラスロックで、醒めた炎のような味わいが素晴らしい"More Rain"は、クールなジャズロック・ナンバー。voとkbのデイヴ・ローソンは後にグリーンスレイドに加わる人。何よりも和風のジャケットに小野小町の俳句の英訳が刻まれたジャケットが印象的。ちなみにミッキー・カーチスのバンドではありません。


(7)Summer Rain:Climax Blues Band(’78)
70's初期にはシカゴスタイルのブルーズ・ロック・バンドだったクライマックス・ブルーズ・バンドも、70's半ばより、アダルトでファンキーな白人ロックに移行していきます。多くの英国の白人ブルーズ・ロックが活路をアメリカに求め、試行錯誤の末に音をマイルドにしていきましたが、成功したのは、フリートウッド・マックを含めごく少数。結局はブルーズから逃れることは出来ずに、従来の路線に戻り、ドイツあたりで根強い人気を誇る、と言うパターンです。そういった連中から見れば、マックやこのクライマックスあたりは、金のために日和ったと感じられるかもしれませんが、それこそが一番難しいことでもあります。モノの本では、70's半ば以降のクライマックスをAORの一言で切り捨ててる場合が多いですけど、一概にそうとも言えないです。ヒットした"I Love You"は確かにメロウな曲でしたが・・・ "Couldn't Get It Right"のヒットを生んだ「Shine On」に続く78年の「Real To Reel」は未CD化ですが、当時アダルト路線に走ったとFMでも結構OAされてました。ここでのアダルト路線というのは、ある意味現在のクラプトンの路線の先駆者(メロウだけど弾きまくる)でもあったわけです(悪く言えばJ Walk風)。この"Summer Rain"もピート・ヘイコックのgを大きくフィーチャー。

バッド・ガール・ソングス(紙ジャケット仕様)

バッド・ガール・ソングス(紙ジャケット仕様)

(8)It's Raining 〜 Car Car Car:Tony Kosinec
カナダのssw、トニー・コジネクの2枚目「Bad Girl Song」から。日本でこのLPが紹介されたのは80年でしたが、それまで聞いた事のない種類の音楽に十代後半の僕はすごく衝撃を受けました。いわゆるsswの音楽は知っていましたが、あくまでもポップなスタイルのもの。ここでのコジネクの弾き語りのスタイルは、ジャンル分けすれば「フォーク」ですけど、もっと根源的な「うた」を感じます。prodはピーター・アッシャー。このメドレーはピアノの弾き語りで、シンプルな美しさがあります。

19 [輸入盤CD](XLCD313)

19 [輸入盤CD](XLCD313)

(9)Right As Rain:Adele
アデルはロンドン出身の女性sswで、08年リリースのデビュー作「19」のタイトルはその年齢から取られてるらしい。シンプルな弾き語りもあるけど、ソウルフルな歌声を生かした躍動感あふれるナンバーの方が合ってる感じ。そういう意味ではこの曲(1曲目とは同名異曲)はいい感じ。ジャズっぽいところもある。それにしてもジャケットは詐欺みたいなもんだ(失礼!)

Bless the Weather

Bless the Weather

(10)Singin' In The Rain:John Martyn
説明不要の曲ですが、52年の映画「雨に歌えば」の主題歌。ジーン・ケリーの踊る姿が思い浮かびます。で、このカヴァーはシンプルな弾き語り。あっという間に終わります。歌は英フォークの重鎮、ジョン・マーティン。71年の「Bless The Weather」より。

No Reason to Cry

No Reason to Cry

(11)Black Summer Rain:Eric Clapton
僕が一番好きなクラプトンのアルバムは「Slowhand」か、この「No Reasons To Cry」('76)なんですが、ジョージ・テリー(g)、ディック・シムズ(kb)、カール・レイドル(b)、ジェイミー・オールデイカー(ds)、マーシー・レヴィー(vo)から成るこの時期のクラプトン・バンドの演奏も僕の好みにフィットします。いささかメロウすぎるきらいはありますが、この"Black Summer Rain"は名曲。"黒い雨"と訳すと今村昌平反戦映画を思い出して重くなるのですが、”かつて僕を照らしてくれた筈の太陽はどこへ行ったんだろう?”という一節から始まるこの歌もまあ、歌詞に関しては重いです。

ペイパー・ドライヴァーズ・ミュージック

ペイパー・ドライヴァーズ・ミュージック

(12)雨を見くびるな:キリンジ
キリンジというと僕はこのデビュー作「ペーパー・ドライヴァー・ミュージック」を思い出します。堀込高樹(兄)のペンによるナンバーで、シニカルな歌詞がおもしろい("カエルの面にシャンパン"とか"悪意の波長は荒れ模様"とか)ですが、何気にペダル・スティールも聞こえてそちらにも耳が行ってしまいます。かせきさいだあのツアーでデビュー前のキリンジの二人がバックについていたことも思い出します。

さてどの辺でお気づきでしょうか。テーマは『ベスト・オブ・「雨の歌」』です。すでに過去3年に渡って枝セレクトとして「水ものセレクト」を毎年作って、一部の方には送りつけてるのですが、さすがにネタ切れで、過去に使ったネタも再録してあります。よって水ものセレクトはこれで打ち止めとなります。