17010■■ヴァイブレータ('03)

監督:廣木隆一
出演:寺島しのぶ大森南朋

ヴァイブレータ スペシャル・エディション [DVD]

ヴァイブレータ スペシャル・エディション [DVD]

赤坂真理の原作を廣木隆一監督が映画化。メンヘラ気味な寺島しのぶとやくざなトラッカー大森南朋の東京から新潟までのロードムーヴィー。突然はっぴいえんどの”しんしんしん”が流れてドキッとしますがラストの浜田真理子の”あなたへ”が沁みます。かなり体当たりな役柄ですが寺島しのぶ(ラストシーンのコンビニでの表情の移り変わりなど)いいです。


雪の夜コンビニに女が酒を買いに来る。早川玲、31歳。
フリーのルポライターをしている彼女は、いつからか頭のなかで聞こえるようになった“声”の存在に悩まされている。
いつか聞いた誰かの言葉や雑誌の文章、言えなかった自分の気持ちが“声”として彼女のなかでざわめき、そのせいで不眠、過食、食べ吐きを繰り返す玲はアルコールに依存していた。
白ワインとジンを探す彼女の目に、コンビニに入ってきた一人の男が飛びこむ。
長靴をはいたその男に反応した彼女のなかで、声がいう。「いい感じ」「あれ、食べたい」。
玲の視線に気付いた男はすれ違いざま、彼女の体に触れる。
それを合図にするように、コンビニを出て行く男の後を追う玲。

コンビニの外、トラックの運転席に座る男が見える。
トラックに乗り込む玲に男がいう。「ようこそ」。
男は岡部希寿というフリーの長距離トラック運転手だった。
ぎこちなく酒を飲みながら、やがてアイドリングの振動を感じながら二人は肌を重ねる。
夜明けになり、一度はトラックを降りた玲だが、再びトラックに戻る。
「道連れにして」という玲を乗せ、トラックは東京から新潟へ向けて走り出した。
窓の外を風景が流れるなか、二人はお互いのことを話し出す。
岡部には妻と子供がいること、長い間ストーカーの女につきまとわれていること、中学もろくに出ていないこと、工務店で働いた後、ホテトルのマネージャーをしていたこと、それからトラックの運転手を始めたこと、これが二台目のトラックだということ。
玲も自分の職業や、取材で会った女性から聞いた食べ吐きを自分でもするようになったこと、アルコールに依存していることを話す。
言葉を重ねながら、肌を重ねながら、男との時間に身をゆだねていく玲。
気がつくと、頭のなかの“声”は聞こえなくなっていた。
あるのは、もう体に馴染んだエンジンのアイドリングの音だけ……。

残雪の白い景色が続く。
男が無線のスイッチを入れ、他のトラッカーたちと交信を始めた。
複数の声がスピーカーから聞こえてくる。
玲はボイスコンバータを使って無線の声と交信しようとするが、突然、それまで聞こえなかった“声”が一気に彼女を襲う。
どうしていいかわからず、玲は泣きながら「気持ち悪い。吐く」と苦しそうに訴える。
岡部はうろたえ、トラックをガソリンスタンドに停める。
玲は駆け出し、口に指を突っこんで吐こうとするが、どうしても吐けない。
前はあんなにうまく吐けていたのに。
助けようと駆け寄る岡部を拒絶しながら、「気持ち悪い、気持ち悪い」と繰り返し岡部を叩く玲。
やっとの思いで嘔吐し、その場に崩れ落ちる。
岡部は玲をラブホテルに連れて行き、風呂を用意する。
優しく玲の体にお湯をかけ、湯船に入れる。
「この男が優しいのは感情じゃなくて本能だよ」。また“声”が聞こえる。
玲は岡部に「殴って」と頼むが、岡部は「殴れねえよ。お前のこと好きだし」という。
彼の気持ちも自分の気持ちもわからず、玲はただ戸惑い混乱する。
翌日、定食屋で昼食を食べながら、二人は本心を打ち明けあう。
岡部は玲に「ずっと乗っててもいいよ」というが、玲はただ「ありがとう」とだけ答える。
ふいに、岡部が玲にトラックを運転させようとする。
「できないよ」といいながら、促されるまま運転席に座り、ハンドルを握る玲。
岡部のいうとおりにハンドルを切り、彼女の運転でトラックが走る。
玲の顔に笑顔が戻ったが、旅の終わりが近づいていることを二人は知っていた。
トラックが東京に戻った。同じコンビニの前。
トラックを降り、外から運転席の岡部を見つめる玲を置いて、トラックはまた走り出す。
「彼を食べて、彼に食べられた。ただ、それだけのことだった」と思いながら、玲は自分がいいものになった気がしていた。
“声”たちも、今は消えていた。



登場者二人だけのロードムービーと言ってもいい映画だけれど、とりわけ寺島しのぶが滅茶苦茶いい。
何がいいかと言うと、彼女の普通さだ。
けっして美人じゃない、むしろブス(失礼、他に表現の方法を知らないので)の範疇に入るし、スタイルもバツグンというわけでもない。
だけど、その普通さが極めて高い存在感を醸し出している。
時折見せる笑顔がやけに魅力的に映える。
ラストシーンの何ともいえない表情なんて、とても演技だけで出せるものではないのではないか。
彼女のもつ天分を感じるし、吉永小百合さんや沢口靖子さんなどの美人系女優には絶対に出来ない演技ではないかなと思った。
大胆に濡れ場を演じる度胸もいいし、その表現力でいやらしさをかき消しているのが又いい。絶賛に値する。

ちょっと倒錯したエロティシズムと言うか、ある種破滅的なセックスを通じて、その中から見えてくる現代人の孤独や優しさが微妙に表現されていたと思う。
また、寺島しのぶを受け止める大森南朋もなかなかいい。
特に彼の声がいい。
最初の一声を聞いただけで、この男は本当はやさしい男なのだと想像させた。

風呂場で寺島が男の胸に泣き崩れ「おかあさん・・・」とつぶやくシーンは愛に飢えてきた彼女の人生を想像させ胸が詰まった。
声の存在を象徴する時折挿入される字幕や、回想シーンの荒れた画面が、会話だけの映画に奥行きを持たせて余韻を引き出している。
テーマの描き方と言い、その表現テクニックといい、30年程前に登場した日活ロマンポルノの意欲的な若手作家達を思い起こさせた