さねよしいさ子


■風や空のことばかり / さねよしいさ子
よしもとばなながまだ吉本だった時代に友人のさねよしいさ子のデビュー盤にライナーを書いたのだけど、「彼女のファンタスティックはグリムやイソップみたいに、まだメルヘンが原始的なおそろしい力を持っていた頃の迫力を秘めています」という一節に惹かれ、僕はこの「風や空のことばかり」を聞こうと思ったのだ。90年のこと。ジャケットに写る少女は「ただのメルヘンなチビ」(吉本)の様にも見えるが、ファニーな歌声、ジャンルを超えた選曲に圧倒された。現在は栗コーダー・カルテットで活動中の栗原正巳(b)、五十嵐洋(steelpan)らを加えた、さねよしBandの演奏力の高さ(大きくフィーチャーされるsaxが今聞くと少し大げさな感じもする)もそうだが、手作り感覚の「うた」が楽しい。"ムーンライトパーク"は、月の光を浴びすぎて気がヘンになってしまった僕らの話だし、日常的な些細な幸せを歌った"なんてこと"、まるで砂男のような"トーナス・シーナス"、動物学者である父との確執(?)を歌ったユニークすぎる"真夜中のソースごはん"など、今聞いても色あせていない。
90'sのはじめ、フォーライフから何枚かCDを出した後しばらく休業。現在はインディーで活動しているがそのスタンスは全く変わっていない。