#6

14番目の月
■天気雨 / 荒井由実
久しぶりに「14番目の月」('76)を引っ張り出した。荒井由実時代の最後の作品。オリジナルは東芝のエキスプレスから出たが、その後初期の3枚同様アルファから出て、最近ではこれだけは東芝から出てるみたい。デビュー作の「ひこうき雲」と「Misslim」が私小説的だとすると、続く「コバルト・アワー」ではアレンジもも含めてかなり派手な感じとなっている。この路線を更に進めたのが「14番目の月」で名義こそ荒井だが、プレ松任谷的な1枚(荒井の最終作はシングル"翳りゆく部屋"と見る)。いつものティン・パン・アレーのバッキングではなく、リズム・セクションはマイク・ベアード(ds)、リー・スクラー(b)によるLA録音に、松原正樹(後にパラシュート)、鈴木茂(g)、松任谷正隆(kb)というラインナップ。ハデハデなタイトル曲は、"ルージュの伝言"を拡大させたようなロックンロールで、これや"避暑地の出来事"は、消費生活を賛美するきらびやかな松任谷路線。80's後半、大衆的な人気を取り込んだユーミン(発売日にバナナの叩き売りならぬ、特設コーナーが出来レコード店員が連呼し商品を売る光景が見られた)は、その時代を映しだす、固有名詞を歌詞にさりげなく挿入したり、歌詞の面で若い女性(少女ではない)の琴線に触れるような小細工を施したり、といったテクニックを駆使したのだけど、この"天気雨"でも「茅ヶ崎のゴッデス」(サーフショップらしい)が登場。但しこのアルバムの中でも、唯一といっていいくらい「荒井臭」を感じさせる愛すべき曲。なんでも「遠くへ行きたい」(日テレ)に出演した際、取材をかねて作ったというが、はねるマンタのpiano、達郎のコーラスもあるが、なんとなくシュガー・ベイブを思わせるナンバー。まあ片思いの歌だけど、最後に”やさしくなくていいよ クールなまま近くにいて”と結ぶあたりが新しい。