ride#3
- アーティスト: エリオット・マーフィー
- 出版社/メーカー: BMG JAPAN
- 発売日: 2008/04/09
- メディア: CD
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エリオット・マーフィーと言えば70's半ばにデビューしたNY派のsswで、ディランの後継者の一人として評論家筋に注目された人です。実際ディランの後継者とは、結局は新しいディランだったというオチがつくわけですが、73年にリリースされた「Aquashow」(Polydor)は素晴らしい出来で(僕はこのアルバムを30年くらい前に新潟のSmall Town Talkというロックバーで初めて聞かせてもらいました)、今でもたまに聞くことがあります。この「Lost Generation」('75)は、それに続くセカンドで、ルー・リードが自身の所属するRCAレーベルに移籍するように働きかけたと鳥井ガクさんのライナーにあります。このアルバムの特徴はNY録音ではなく、LA録音で、ジム・ゴードン(ds)、ゴードン・エドワーズ(b〜スタッフ)、ジャッキー・クラーク(g)、ソニー・ランドレス(g〜ジョン・ハイアットとの仕事で知られるようになるのは80'sに入ってからです)、ネッド・ドヒーニー(g)、リチャード・ティー(kb〜スタッフ)、ウェイン・ディヴィラー(kb)、ボビー・キンボール(vo〜後にTOTO)といったメンツが参加し、ポール・ロスチャイルドがプロデュースを手掛けています。そのタイトル*1から格調高い文学的な歌詞が、どの曲にも含まれているのですが、この西海岸的なゆるいサウンドにまずやられます。ランドレスの弾くlapsteelが心地いい"History"、憧れのハリウッドを歌った(♪君が農場でアンディ・ウォホールを夢見てた時…なんて歌詞が出てきます)"Hollywood"、疾走感がある"A Touch Of Mercy"、"When You Ride"といったナンバーを含むA面の流れが素晴らしいです。特に"When You Ride"はいかにも75年のLAといった感じの音づくりで、マーフィーの本質とはかけ離れた明るすぎるarrなのですが、とても印象に残ります。
ヒットラー夫人であるエヴァ・ブラウンを歌った同名曲は、当時のグラム・ロッカーたちがネオ・ファシスト的なポーズをとっていることに対して抗議したものとか。それでもそういった歌詞が切ないメロディーとスピーディーなロックンロールに乗ってしまえば、歌詞の事はあまり気にならなくなります。
シングルになった"Visions Of The Night"は、マーフィーのharmonicaも入ったおなじみのスタイルのフォークロックでこう言うのには、西海岸も東海岸もないなあと感じます。そして続く"Lookin'Back"は、マーフィーとライヴァル視されたデビュー当時のブルース・スプリングスティーンを思わせる、ストリート・ロックンロールです。
さてマーフィーのその後はRCAでもう1枚の後、CBSから「Just A Story From America」をリリースし、これまた期待されたのですが、結局は成功を収めることなくメジャーとの契約を切られ、インディーで活躍。パンクの時代に入って、仏のNew Roseからクリス・スペディングとの共演盤など多くのアルバムが出ています。活動の根拠を完全にヨーロッパにおいているようで、youtubeでも近年の動画がいろいろ見られます。
これは08年ベルギーでの"Like A Rolling Stone"。エレン・フォーリーとの共演らしいです。
そういえば90年の二度目の来日は渋谷のクアトロで見ましたが、アンコールには、シーナ&ロケッツの鮎川誠(g)が参加して"Knockin' On Heaven's Door"を歌いました。
*1:スコット・フィッツジェラルド、EE・カミングスら第1次世界大戦後に青年期を迎えた作家・詩人陣を指す言葉ですが、ガートルード・スタインが、ヘミングウェイを指して言った言葉が最初と言われています