【河馬】9・Fumme Futale
あまりにも有名なバナナジャケのヴェルヴェット・アンダーグラウンドのファースト「Velvet Underground And Nico」(’68)に収められた“Fumme Futale”は”宿命の女”という邦題が付いていました。”運命の女”とも訳されますが、元々はノワール系の映画に出てくる悪女(と書くと中島みゆき的ですが)を指します。ゲスト扱いだったニコが歌ったけだるいナンバーを80’sに甦らせたのが、エヴリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーンです。Cherry Redから82年に出た「Distant Shore」はスカスカの弾き語り(しかもヘタウマ風の)ですが、フォークとは似て非なる音楽でした。どっちかというと初期は音楽畑よりもファッション関係の人たちに注目されたような覚え。当時ウィークエンド、ヤング・マーブル・ジャイアンツなどオルタナティヴ系のニュー・ウェイヴのアーティストで、こういうアコースティックなムードの音楽がありたちまち「ネオアコ」と称されて注目を浴びるようになります(この前までダブとレゲエだったのに)。トレイシーはすぐさまベン・ワットとのEBTGの活動を本格化させ、Blanc Y Negroから「Eden」をリリースする頃にはネオアコのブームは、ソウルジャズボサノヴァ・テイストを持ったものへと移行していったのです。久々に聞くトレイシー一人による”Fumme Fatale”には、かつて聞いた時の様な鋭さは感じませんが、だれが言ったか「静かなパンク」というのは言い得て妙です。