最初に断っておくけど、僕はギター弾けませんので、テクニカルなことはわからないのだけど、御託を並べます(^^;
「レココレ」誌'94.7号の特集「スライド・ギターの魔法」によるとスライド・ギターとは、
「ギター奏法の一種。左手の指にはめたビンのネック、バーなどを用いて弦の上をスライドさせて弾く奏法。ブルーズ・ギター独特の奏法の1つ」(大意)とある。要するに「ワザ」の一種なわけで、時期的に乱暴に分けると、こんな感じ。

(A)戦前戦後の黒人ブルーズにて
(B)60's後半からの白人によるいわゆる「ホワイト・ブルーズ」にて
  (これは当然ながら(A)をルーツとしている)
(C)70's初めの米南部志向のサザン・ロック〜スワンプ・ロック、もしくは白人のよるR&Bにて
(D)70's全般に、アクセントや彩としてのスライド
  (これは(C)が時代のトレンドとなり、一般的な(チャートインするような)ポップス・ロックの中でも使われるようになった。つまりちょっとサザンロック風に〜とか、アレンジの面で、作りこまれた感じで使用)
(E)90's以降、(C)をルーツとする第三世代によるスライド
  (80'sはスライド不毛時代だったけど、CDの普及と過去の名盤の再発で70'sの音楽が再評価された)

今回のセレクトは(C)(D)中心で、(A)はもちろん、(E)にもなかなか触れられなかったのでそれはまた別の機会に。

1)I Can't Dance:Glenda Griffith('77)

77年は女性ヴォーカル隆盛の年で、どこのレコード会社もポスト・リンダ・ロンシュタットを狙っていた。CBSヴァレリー・カーターをイーグルスEW&Fのバックに売り出したが、アリオラというややマイナーな会社もイーグルス一派をバックにしたグレンダ・グリフィスをプッシュ。結局は日本以外ではあまり話題になることなく消えてしまった(未CD化)けど、これが70'sのLA産ウエスト・コーストのカントリー・ロックの典型で実に楽しい。ダニー・オキーフキャロル・キングのカヴァーもあるが、ここではトム・T・ホールのこの曲を。グラム・パーソンズの「Grievous Angel」では、この曲はジェームズ・バートンがスライドを弾いていたが、ここでのドン・フェルダーのソロはもっと泥くさい。イーグルスの"Good Day In Hell"のソロに匹敵するのだ。prodはドン・ヘンリーとヘンリーのシャイロ時代の盟友ジム・エド・ノーマン。

2)Love You Till The Cows Come Home:James Griffin('74)
ブレイキン・アップ・イズ・イージー
さっきの分類では(D)になる、ポップスの中に入り込んだスライド。ジェームズ・グリフィンはブレッドのメンバーでこれは74年の「Breaking Up Is Easy」から。弾いているのは当時スティーリー・ダンにいたジェフ・バクスターで、いわゆるセッションの「お仕事」なんだけど、意外と熱い。もちろんブレッドのメンバーということもあってこういう曲ばかりではありませんが、ドライヴするgというと僕はこういうものを思い出してしまう。

3)Shimmy She Roll,Shimmy She Shake:Jim Pulte('73)
ジム・パルティというとジェシエド・デイヴィスがprodした「Out The Window」('72)の方が有名だけど、その次の「Shimmy She Roll,Shiimy She Shake」('73)も地味だけど悪くない。スライド弾いてるのはトム・デューイという人で特に有名な人ではないけど、当時はスワンプ・マナーというか、南部的な音を出すところには必ずこういう人はいたのだ。典型的な(C)ね。

4)Full Time Woman:Grootna('71)
Grootna
グルートゥナはジェファーソン・エアプレインのマーティ・バリンがprodしたバンドで、シスコ・サウンドというとちょっと違うかな。それでも紅一点のアンナ・リッゾのvoは、グレイス・スリックをレイドバックさせたような歌い方だ。ユルいというかウスいスライドは、ヴィック・スミスで後のバリンのグループ、ボデイシャスDFに参加する。ちょっとトーンがジョー・ウォルシュっぽい。

5)Feel So Bad:Mike Bloomfield & Friends
ライヴ・アット・ジ・オールド・ウォルドルフ
今回唯一の(B)が、マイク・ブルームフィールドの76〜77年のライヴを集めた「Live At Old Wardorf」('98)から。もはやホワイト・ブルーズのブームなど消え去り、時代の寵児としてもてはやされたことすら人々は忘れてしまっているけど、シスコの老舗のクラブではこんなに熱いプレイを聞かせているのだ。もはや趣味の領域に近いけど。流れるようなスライドは泣かせる。voはボブ・ジョーンズ。

6)LA,Memphis & Tyler,Texas:Dale Hawkins
LA、メンフィス&タイラー、テキサス
今回ライ・クーダーのプレイを入れるのにクーダーの初セッションといわれるフュージョンか、コノデイル・ホーキンスにしようか迷った(共に今年CD化された)。ホーキンズは言うまでもなく"Susie Q"で知られるロカビリー系のギタリストだけど、69年Bellから出た「LA,Memphis、Tyler,Texas」には、若きクーダーも切れ味鋭いスライドで参加。時代柄スワンプ・ロックは生まれていないけど、ジョー・サウスにも通じる南部の白人カントリーの世界だ。

7)Proud To Be:Vinegar Joe
Six Star General
英スワンプからも一組。ヴィネガー・ジョーは若きロバート・パーマーとエルキー・ブルックスがいた大所帯のバンドで、73年の最終作「Six Star Generals」から。エルクのvoはボニー・ブラムレット張りのシャウト。スライドはピート・ゲイジ。

8)Jet Set:Stephen Stills Manassas
スティーヴン・スティルス&マナサス ミュージックラーデン・ライブ [DVD]
これは反則。マナサスのドイツの音楽番組「Musikladen」出演のヴィデオから。このソフトはパッケージを代えて今もDVDとして出てるので、未聴の方はぜひどうぞ。スライドはアル・パーキンスで、かなりラフ&ルーズ。スティルスと張り合います。メドレーなので抜粋です。

9)25歳の女:鈴木祥子

あたらしい愛の詩

あたらしい愛の詩

今回和ものはこれだけ。

10)I'm Gone:King Biscuit Boy
キング・ビスケット・ボーイ
キング・ビスケット・ボーイことリチャード・ニューエルはカナダ出身の白人ハーピストで、74年にアラン・トゥーサンとミーターズをバックに録音されたのが本作「King Biscuit Boy」(Epic)。元々ロニー・ホーキンスと一緒にやっていた人だけど、アルコールが原因で近年他界している。キャリアの割には残されている音源が少ないが、このニュー・オーリンズ産のアルバムはユーモラスなところもあってなかなかおもしろい。

11)Long Hot Summer Night:Wendy Waldman
Strange Company
エストコーストのssw、ウェンディー・ウォルドマンは、適度にポップで適度にフォーキーでと僕にとってはストライクゾーンど真ん中なんだけど、何故か70's日本のワーナーは1枚も出そうとはしなかった。これは従来よりのロック路線に傾いた78年のワーナー最終作。バックには後にクリトーンズを結成してリンダ・ロンシュタットの「Mad Love」に加わる面々がいるが、この曲での絶妙なスライドは、クレイグ・ハル。後にランディー・マイズナーの2枚目やキム・カーンズのアルバムでいい仕事した人。

12)Kokomo:Bonnie Raitt
Takin My Time
昔から老け顔の人は得だねえと思わせる、ボニー姐さんのこれは3枚目にあたる72年作「Takin' My Time」から。prodはジョン・ホールで、前作「Give It Up」の流れからややコンテンポラリーになったかな、という具合。ボニーがエレキスライドに目覚めるのは、次の次の「Sweet Forgiveness」からなので、このアルバムでは弾きまくるという感じではない。ただnational-steelを弾くこの曲は別。