松任谷由実

悲しいほどお天気
■悲しいほどお天気 / 松任谷由実
ユーミンへの積極的な興味は唯一のライヴ体験である「Reincarnation」そして「Voyager」あたりで終わっているが、リアルタイムで好きになった「コバルト・アワー」からずっと聴き続けてきたわけではない。特に70's後半から80's初めの年に2枚リリースのアルバム量産期は、疎遠だった。それにしてもあふれ出てくる楽曲群、なんとも精力的な活動振りだった。その中には代表作とされる「流線型'80」('78)、「Surf & Snow」('80)、「昨晩お会いしましょう」('81)が含まれている。
「流線型」と「Surf」の間の4枚は、やや地味な印象で、実験的な色合いも濃いのだけど、この「悲しいほどお天気」('79)は、初期の荒井由実時代を思わせる私小説っぽさが一部復活している。タイトル曲は、後に奥山佳恵が主演した単発ドラマのタイトルともなったが、時間が止まったような夏の午後を思わせるようなもの。原題は「私の心のギャラリー」の意味だが、多摩美出身で、絵画の道をあきらめ音楽に進んだ自身に投影させた歌詞がいい。また♪72年10月9日あなたの電話が少いことに慣れてく〜と歌われる"ジャコビニ彗星の日"は、同日空前の彗星ブームをあざ笑うかのように曇り、日本ではほとんど観測できなかったというジャコビニ彗星と「あなたの電話」(を待ち続ける(けど来ない))を並べた歌詞が秀逸。演奏面ではゴージャス感を増し、ハデハデな"78"(神秘主義好きが顔を出すタロットの話、エンディング近くで上田正樹のソウルフルな歌声が聞ける)、ファンの間では絶大な人気を誇る"Destiny"など、下世話後1歩の曲もあってアルバム全体像は微妙なところ。そんな中やっぱり一番なのは、松原正樹のsteelの入ったカントリーロック"緑の町に舞い降りて"で、5月の盛岡を歌ったもの。キャラメル・ママがバックを務めた初期には、はちみつぱいの駒沢裕城をゲストに迎えた素朴なカントリーロックを実は、ユーミン本人はレイドバックしすぎと思っていたとか・・・