keep#3

Takin It to the Streets
■It Keeps You Runnin' / The Doobie Brothers
トム・ジョンストンが退いて*1スティーリー・ダンからマイケル・マクドナルドが参加した、6枚目の「Takin' It To The Street」は、バンドにとって転機になった1枚です。前作の「Stampede」では草いきれを感じさせる、汗と埃の男くさい野性味あふれるサウンドでしたが、本作で聞かれるのは都会的な、洗練された音です。内ジャケにビルの谷間から朝日が射すというショットがあったと記憶しますが、あのイメージ。実際、ラスカルズを思わせると当時よく評されていたマクドナルドのソウルフルな歌声は衝撃的でした。スティーリー・ダンのメンバーですが、その時代にはそれほど活躍した覚えはない(「Katy Lied」に参加)ので、ドゥービーで花開いた感じです。

これは「No Nukes」からの動画ですが、ライヴ盤とは音源違い。ジェームズ・テイラー、ジョン・ホール、グラハム・ナッシュ、ジャクソン・ブラウンボニー・レイットらのMUSEのブレインをフィーチャーしたマディソン・スクエア・ガーデンでのオールスター・ジャム。他にはローズマリー・バトラー、ニコレット・ラーソン、チャカ・カーン、スィート・ハニー・イン・ザ・ロックの面々をフィーチャーして、とりわけSWIRによるゴスペル的なコーラスが強烈でした。
No Nukes
76年というとソウル、ジャズといった黒人音楽ベースの他ジャンルが本格的にロックとクロスオーヴァーし始めた時期でもあって、のちにAORと呼ばれる音楽の前身でもある「シティ・ミュージック」といういささか曖昧な表現のジャンルが生まれつつあった時期でもあります。このアルバムでもとりわけホーンズとのからみが絶妙な"Wheels Of Fortune"、"8th Avenue Shuffle"、"For Someone Special"といったナンバーは、まさしく都市の音楽なイメージです。従来はロックンロールの中にアコースティックな感覚を持ち込んだ曲を得意としていたはずの*2パット・シモンズ作品が、めっきり都会的なサウンドになっているのも印象的です。この傾向はアルバムを重ねるごとに強調されますが、単なる触媒体質(マクドナルドに対する)というわけではなく、シモンズの意識の変化もあったのでしょう。結果マクドナルド一人のせいでドゥービーの音が変わってしまったわけではないのです。
さて"It Keeps You Runnin'"は、この年カーリー・サイモンの「Another Passenger」の中で早くもカヴァーされ、シングルカットもされました(#46)。
Another Passenger
そちらはドゥービーとリトル・フィートの混成軍がバックをつけていましたが、そちらの粘り気のある演奏に比べると、こちらはリズムボックスとクラヴィネットで始まるファンキーな味付け。やはりマクドナルドのソウルフルな歌声が光ります。

*1:公式にはまだメンバーでしたが、実際レコーディングの大半には未参加だったようです。療養の為、とされていましたが、結局は何だったのか未だに不明。日本盤LPのライナーは小倉エージさんでしたが末尾に、朗報!トム・ジョンストン復帰間近、みたいな事が書かれていて、これも結局はマネージメント側の流したガセでした。こういう事は当時よくありましたし、純真な日本のファンは丸ごと信じていたのです

*2:それがR&Bをルーツとしたトム・ジョンストン作品と差別化を図っていました