職業#7

Islands: 30th Anniversary Edition
■Sailors Tale / King Crimson
今度は船乗りです。
「Islands」は、キング・クリムゾンの71年に出た4枚目。英日盤は射手座星雲のジャケットでしたが、米盤はインナースリーヴの味気ない島ジャケだった気がします。一作ごとにメンバー・チェンジを繰り返すクリムゾンですが、前作「Lizard」がキース・ティペット・グループの客演で演奏面でのジャズ色が急速に強まっていましたが、ロバート・フリップ(g)とピート・シンフィールド(words)は、メル・コリンズ(sax,fl)に元ワールドのイアン・ウォーレス(ds)、元ボズ・ピープルのボズ(vo,b)を加え、第4期クリムゾンをスタートさせました。ゲストはキース・ティペット・グループのティペット(p)、マーク・チャリグ(cornet)、ハリー・ミラー(strings-bass)、ロビン・ミラー(oboe)、ポーリナ・ルーカス(ss)です。
手元にある03年に出た日本盤CDの赤岩和美さんによる詳細な解説では、この"Sailor's Tale"は、前曲"Formentera Lady"と対になっていて、それに合わせてタイトルが付けられたそうです。BC8世紀にギリシアの詩人、ホメロスによって書かれた「オディッセア」の世界が、シンフィールドの例によって難解な歌詞でもって描かれています。地中海のバレアリス諸島のフォーメンテラ島(スペイン領)は、シンフィールドがヴァカンスで訪れていた所です*1。「オディッセア」では、セイレーン(サイレン)の話も出てきますが、フォーメンテラ・レイディー=セイレーンで美しい声で船乗りたちを惑わす存在として知られています。だからこの曲の最後ではボズの高音のスキャットが聞こえるのです。さてウォーレスのシンバルから"Sailor's Tale"は始まりますが、前半は前曲のテーマをジャジーになぞり、後半は火の出るようなフリップのgに続いて空爆のようなmelotornが聞かれます。

プログレファンの間では、どの時期のクリムゾンが最強か?という論争がたびたび繰り返されるらしいです。一般的にはグレッグ・レイクイアン・マクドナルドのいた「宮殿」期か、ジョン・ウェットンビル・ブラッフォードのいた「スターレス」期が人気ですが、僕としてはジャム・バンド的な性格のこの時期も忘れられません。最悪な音質で悪評高かった活動時期唯一のライヴ盤「Earthbound」もこの時期でしたし、シンフィールド脱退後、フリップと残りの3人が不和になりながら、ステージをこなした72年のアメリカツアーでは、3人がフリップの苦手なブルーズを演奏する「いやがらせ」を行ったり、ツアーで一緒だったアレクシス・コーナー&ピーター・ソラップ*2のステージに客演したりとなかなかすごいライヴ・パフォーマンスだったようです。
Accidentally Borne in New...
フリップ以外のメンバーが脱退して、クリムゾンはウェットン、ブラッフォードらの第5期へと進んでゆくのですが、コリンズ、ボズ、ウォーレスの3人は、前述のスネイプの他におもにR&B的な色の濃いブリティッシュ・ロックのLPに多くセッションで加わっています。その後ボズはボズ・バレルとしてバッド・カンパニーに参加していますが、一昨年亡くなっています。ウォーレスは、ボズと組んだセッションが多く、アルヴィン・リー&Coやチャップマン&ホイットニーなどの仕事が有名です。70's後半からは渡米し、ディランの初来日に同行してファンをびっくりさせました(前年の77年には、ローリング・ココナッツ・レヴューでのロニー・マックのステージで初来日していますが)。その後デイヴィッド・リンドレーのエル・ラヨ・Xを中心に西海岸でのセッションも多く、すっかり職人dsぶりが板についていました。

*1:デイヴィッド・アレンがゴング脱退後にジリ・スマイスと籠ったマジョルカ島の南の小さな島でしばしばケヴィン・エアーズが隠遁したイビザも近いです。いわばヨーロッパのヒッピーたちの楽園だったのでしょう

*2:この後結成されたスネイプにこの3人は参加、両者のアメリカツアーで誕生した事もあって、スネイプのLPのタイトルは「Accidentally Born In New Orleans」でした