you#2

Time Is on My Side
■You Just Can't Forget Her / Tracy Nelson
トレイシー・ネルソンと言えば、マザー・アース*1時代のまさに土に還るようなスモーキー・ヴォイスが印象的な女性ブルーズ・シンガー(と最近は言われるんでしょうねえ)です。元々はウィスコンシンの出身で、60'sにサン・フランシスコでマザー・アースを結成。いわゆるシスコ・サウンドではなく、ザ・バンドを塩辛くしたようなブルージーなそしてゴスペル的な音楽でした。MercuryとRepsriseに4枚のLPがあります。
Make a Joyful Noise
マザー・アース名義なのかソロ名義なのか解りかねる、Columbia時代の「Poor Man's Paradise」を挟んで、今度はAtlanticからリリースされたのが名作の誉れ高い「Tracy Nelson」('74)で、これは名盤探検隊シリーズで世界初CD化されています。このCDの天辰保文さんの解説でやっとトレイシー・ネルソンの経歴がわかった次第です。
トレイシー・ネルソン
75年にMCAに移籍してリリースされた「Sweet Soul Music」と「Time Is On My Side」は当時から中古屋でよく見かけながら、手にとっては箱に戻していたものでした。最近では見なくなったなあと思った矢先、76年の「Time Is On My Side」のOne WayからのCDを先日見つけ思わず購入した次第です。カントリーっぽすぎるのではないか?もしくはAOR風だったら?という心配もありましたが、そんな事はなくブルーズとカントリーとポップがいい塩梅でブレンドされています。ラリー・カールトン、ディーン・パークス、ジェシ・デイヴィス、ダニー・コーチマー(g)、デイヴィッド・フォスタークラレンス・マクドナルド(kb)、エド・グリーンジム・ゴードン(ds)、ジム・ハンゲイト(b)というバックは多分に匿名的ですが。
ゴスペル・フィーリングあふれるトレイシーのvoは、例えばボニー・レイットやダイアン・ダヴィッドソンに通じるものがあります。マザー・アース時代は辛口なバックに負けじと張り合っていたのですが、ここでの姿は職人によるポップな演奏に身をゆだね、気持ちよさそうに歌っています。タイトル曲はアーマ・トーマスやローリング・ストーンズで有名なナンバーですが(作者はジェリー・ラガヴォイ)、他は同じ頃リリースされたアメリカン・フライヤーのファーストに収められた、クレイグ・フラーの"The Woman In Your Heart"、ロジャー・トロイやジョン・ハイアットの書き下ろしの曲に交じって、マザー・アース時代の同僚、ジャック・リーも何曲か提供しています。
マイケル・スムーザーマンという人の書いた"You Just Can't Forget Her"は、一見地味な曲ですが、聞きなおすごとにスルメの様に味が出てくるナンバーです。やはりトレイシーの滋味のあるvo故でしょう。87年の動画がありました。

ダイアン・ダヴィッドソンの姿もコーラスで見られます。

こうなるとボブ・ジョンストンがprodの前作を聞いてみたくなります(同じくOne WayからCD化)。
Sweet Soul Music
(Wounded Bird、One Way、Collector's Choice Music、Collectablesなどの安価な再発レーベルは、もちろんいいのですが、ジャケットがトリミングというのが気に入りません。本作も前作も同様)

もちろん現在もトレイシーは活動中で、旦那のボビー・チャールズがたまに出すアルバムには顔を出していますし、マーシア・ボールやアーマ・トーマスと共作した「Sing It!」が99年のグラミーのベスト・コンテンポラリー・ブルーズ・アルバムにノミネートされたり、と話題がありました。

*1:リアルタイムでの評価はわかりませんが、この種のものが再評価され始めた90's以降もオリジナルアイテムがなかなかCD化されず、いまだにちゃんとした評価を受けていません。何年か前にWounded BirdからMercury時代のLPがまとめてCD化されました